「まだ写している子がいるから黒板を消せない」「待っていると授業が止まってしまう」「そもそもノートも教科書も出していない子がいて、授業が始められない」
新任の先生なら、一度はこんな場面で困ったことがあるのではないでしょうか。
写すのが速い子は手持ちぶさたになり、遅い子は焦る。消すタイミングを迷っているうちに時間が過ぎ、気づけば予定していたところまで進まない。かといって、写し終わっていない子がいるのに消してしまうのも気が引けます。
私は元教員として10年、そのうち担任を6年経験しました。私の学級にも、写すのが遅い子もいましたし、ノートを出すのが遅い子もいました。この記事では、そのとき実際にやっていた「消さない板書」と「写した人から立つ」という仕組みを中心に、全員がそろった状態で授業を始めるための工夫をまとめます。授業でそのまま使える指示や声かけの例文も載せているので、参考にしてみてください。
黒板を「消すタイミング」に悩むなら、そもそも消さない板書にする
「板書をいつ消せばいいのか」という悩みは、黒板を途中で消す前提で板書をしているから生まれます。
私は、1時間の授業の中で消すことがないような板書にしていました。理由は、授業の終わりに子どもが板書のすべてを振り返ることができるようにするためです。
授業の最後に黒板を見たとき、はじめに何を考えて、途中でどんな意見が出て、最後にどこへたどり着いたのか。それが1枚の黒板に全部残っていると、子どもはその時間の流れをまとめて振り返ることができます。途中で消してしまうと、前半の内容は子どものノートの中にしか残りません。
そして、消さない板書にすると、結果として「消すタイミング」に悩むことがなくなります。写すのが遅い子がいても、黒板は授業の終わりまでそこにあるので、慌てて消す必要がありません。
1時間分を消さずに収めるには、書く量や配置をあらかじめ考えておく必要があります。黒板を左から右へ使う、書く場所をおおまかに決めておく、といった工夫です。書く情報の絞り方など、板書そのものの書き方は板書が下手で悩む新任教師へ 5つのコツで詳しくまとめています。
写す時間は、授業の中にあらかじめ確保しておく
もうひとつ大事にしていたのが、ノートを写す時間を確保することです。
説明をしながら書き、書きながら次の話に進むと、子どもは「聞く」と「写す」を同時にやらなければなりません。写すのが遅い子ほど、どちらも中途半端になってしまいます。だからこそ、写す時間は「余ったらとる」ではなく、最初から授業の流れの中に入れておくのがおすすめです。
写す時間をとるときは、何をどこまで写すのかをはっきり伝えると、子どもが迷いません。たとえばこんな言い方があります。
「今から写す時間をとります。黒板の、この線のところまで写してください。」
また、写し終わった子が手持ちぶさたにならないように、「写し終わった人は、自分の考えを一行書いておいてください」のように次にやることを伝えておくという方法もあります。速い子が待っている時間も、無駄になりにくくなります。
写す時間を確保すると、そのぶん他の活動の時間が減ります。1時間の中でどこに何分使うかの考え方は、45分で授業が終わらないときの時間配分で紹介しています。
ノートを出さない子には「写した人から立つ」でゲーム性を持たせる
写すのが遅い子以上に、私が一番困ったのはノートを出さない子でした。ノートが出ていなければ、写すも何もありません。一人ひとりに「ノートを出して」と声をかけて回っているうちに、授業の始まりがどんどん遅れていきます。
そこで私がやったのが、ゲーム性を持たせることでした。授業のはじめに黒板へタイトルとめあてを書き、「タイトルとめあてを写した人から立つ」という指示を出します。たとえばこんな言い方になります。
「タイトルとめあてをノートに写した人から、立ってください。」
これを何度かやると、「この後立つから」と、みんな頑張って写すようになりました。立つという動きがあることで、写し終わったかどうかがひと目でわかり、子ども自身にとっても「ここまでやればいい」というゴールがはっきりします。
一人ずつ「ノートを出しなさい」と言われるのと、学級全体で「写した人から立つ」に取り組むのとでは、子どもの受け止め方が違います。注意される場面を減らしながら、全員の手を動かすことができるのがこのやり方のよいところです。
なお、ノートを出さない・書かない背景には、その子なりの理由があることもあります。理由の見方についてはノートを書かない子への対応で詳しく書いているので、あわせて読んでみてください。
「教科書を開いた人から座る」で、全員そろった状態から始める
全員が立ったことを確認したら、次の指示を出していました。「教科書○○ページを開いた人から座る」です。
「全員立ちましたね。では、教科書○○ページを開いた人から座ってください。」
この2つの指示を続けることで、全員が教科書とノートを準備できた状態から授業を始められました。
黒板の端に、こっそりページ番号を書いておく
このとき、黒板にこっそり教科書のページ番号を書いておくのがおすすめです。タイトルやめあてと一緒に、目立たないところに「p.○○」と書いておくだけです。
慣れてくると、子どもたちは立った時点で、黒板のページ番号を見て教科書を開くようになります。そうなると、「開いた人から座る」と言った瞬間に、ほとんどの子が座ります。準備の時間がぐっと短くなりますし、教科書の忘れ物も減りました。
立つ、座るという動きがあると、教師の側からも「誰がまだ準備できていないか」がすぐにわかります。一人ひとりの机の上を見て回らなくても、立っている子・座っていない子を見れば確認できるからです。
毎回、機械的にはやらない
ただし、このやり方は毎回必ずやっていたわけではありません。学級の様子を見ながら進めていました。
準備がそろっている日にわざわざやる必要はありませんし、同じことを繰り返しすぎると、ゲームとしての新鮮さもなくなります。「今日は準備が遅いな」「落ち着いて始めたいな」と感じた日に取り入れるくらいの使い方がちょうどいいと思います。
そもそもチャイムが鳴っても席につかない子がいて、授業の始まりがそろわないときは、チャイムが鳴っても席につかない子への対応もあわせて読んでみてください。学校全体で取り組んだ「1分前着席」を紹介しています。
動きが遅い子には、授業の前に「こっそり」伝えておく
「写した人から立つ」には、注意点もあります。学級の中には、どうしても動きが遅く、学級のみんなを待たせてしまう可能性がある子がいることです。
最後の一人になって全員に見られながら立つのは、その子にとってつらい経験になりかねません。ゲームのつもりが、その子に恥をかかせる場面になってしまったら意味がありません。
そこで私は、そういう子には授業の前に、こっそり伝えていました。内容は「今日はやるから、早めに準備する心構えをしておいて」ということです。たとえばこんな言い方です。
「今日の授業で、写した人から立つのをやるからね。早めに準備する心構えをしておいてね。」
ポイントは、ほかの子に聞こえないところで伝えることです。前もって知っていれば、その子も心の準備ができます。全体への指示の前に、一人ひとりへの小さな配慮を挟んでおく。これだけで、ゲームを学級全員にとって安心できるものにしやすくなります。
字が丁寧すぎる子・写すのに時間がかかる子には、板書の量で調整する
写すのが遅い子の中には、字が丁寧すぎて時間がかかる子もいました。一文字ずつきれいに書こうとするので、どうしても周りより遅れてしまいます。丁寧に書くこと自体は悪いことではないので、「もっと速く」とだけ言うのも違う気がします。
そこで私が意識していたのは、板書の量を少なめにすることです。写す量が少なければ、丁寧に書く子も、写すのに時間がかかる子も、時間内に写し終えやすくなります。
ただし「絶対に書くところ」は書いてもらう
一方で、絶対に書かないといけないところは書いていました。量を減らすといっても、大事なところまで省いてしまっては意味がありません。
私は、書くこともトレーニングだと考えていました。だから、必要なところは頑張って書いてもらいました。量は減らす、でも書くべきところは書く。この線引きを先生の中で持っておくことが大切だと思います。
このほかにも、次のような方法があります。
- 写す部分に印をつけ、「ここだけは必ず写す」と範囲を示す
- 写すのに時間がかかる子には、一部を書き込める穴埋め式のプリントを用意する
- 学校のルールで認められていれば、タブレットで板書を撮影できるようにする
どれも、学級の実態や学校のきまりに合わせて検討してみてください。ノートそのものをどう設計するかについては、ノート指導が定着しない学級へも参考になると思います。
新任の頃の自分に伝えたいこと
最後に、新任の頃の自分に向けて書くつもりで、伝えたいことがあります。
正直に言うと、新任の頃の私は、写すのが遅い子やノートを出していない子に気づいていませんでした。気づいたとしても、その子が悪いと思っていました。
でも今は、そうではなかったと思っています。板書や指示の出し方で、どの子にも勉強しやすい環境をつくることができます。そして、環境をつくると、授業がしやすくなります。子どもにとっても、先生にとっても、です。
とはいえ、最初から自分に合ったやり方が見つかるわけではありません。おすすめは、先輩の先生の話し方や授業の構造をまねしてみることです。指示をどんな順番で出しているのか、写す時間をどこでとっているのか。まねをしながら、少しずつ自分のスタイルを確立していけばいいと思います。
焦らなくて大丈夫です。自分にとって心地よいスタイルを、ゆっくり見つけていってください。
まとめ:板書と指示の出し方で、全員そろって始められる
板書を写すのが遅い子、ノートを出さない子への対応をまとめます。
- 1時間の中で消さない板書にすると、授業の終わりに全体を振り返れて、消すタイミングにも悩まない
- 写す時間は、授業の流れの中にあらかじめ確保しておく
- ノートを出さない子がいるときは「タイトルとめあてを写した人から立つ」でゲーム性を持たせる
- 全員立ったら「教科書○○ページを開いた人から座る」で、準備がそろった状態から始める
- 黒板にこっそりページ番号を書いておくと、慣れた頃には一瞬でそろう。教科書の忘れ物も減る
- 毎回機械的にではなく、学級の様子を見ながら使う
- 動きが遅い子には、授業前にこっそり伝えて恥をかかせない
- 板書の量は少なめに。ただし絶対に書くところは書いてもらう
写すのが遅い子も、ノートを出さない子も、その子だけの問題として見ると苦しくなります。板書と指示の出し方を少し変えるだけで、全員がそろった状態から授業を始めやすくなります。できそうなところから、ひとつずつ試してみてください。


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